「神社はぶれない事が大事」倒壊した阿蘇神社が地域に果たす役割

「神社はぶれない事が大事」
倒壊した阿蘇神社が地域に果たす役割
2016-07-03 阿蘇神社 内村泰彰
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阿蘇神社の今後についてはまだ決まっていないことも多いので、今回のお話はお宮の総意ではなく一職員の見解として聞いていただけたら幸いです。

先に私について少しだけ話したいと思います。阿蘇神社はその名の通り阿蘇氏が代々宮司を務める神社です。その宮司の他に代々神職を務める家があり、そのうちの一つが私の母の家でした。そうした環境があり小さい頃からお手伝いでお宮に通ううちに自然と興味を持ち、奉仕することになりました。私は奉職して15年位経ちます。普段はお祓いや祭典奉仕といったものから、日頃の雑用まで幅広くやっております。

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阿蘇神社の歴史は社記によると紀元前282年に始まっています。神社の主祭神は健磐龍命(たけいわたつのみこと)、神武天皇の孫神ですが、阿蘇山火口のご神体としても扱われ火山の信仰が厚かった事がわかります。火山の活動は人々にも大きな影響を与えますので、国も注目してここにご祈祷をするお社を建て崇められてきました。

こうした場所にありますので、これまでもたびたび災害はありました。ただ、それでも今回の震災ほどの災害は現在わかる範囲では確認ができていません。少なくとも今回倒れた楼門は築170年程ですので、その間にはこの規模の地震は発生していないことは確かです。今回の震災はそれほど未曾有の災害でした。

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前震が発生した時は当直だったので社務所にいました。揺れは感じましたが「ゆれたね怖いね」程度で考える余裕もありました。揺れが収まってから見回りもしましたが、被害もありませんでした。それで社務所に戻りテレビをつけたところ、そこで益城の被害を目にしたんです。これは大変だと、そこから益城に住んでいるうちの職員に電話をかけて様子を確認したりしました。

益城では木山神宮も被害を受けた事がわかりましたので翌日は先輩が手伝いに行き、私も16日から青年会で益城の支援に入る予定でしたので、15日の夕方に下見に行きました。そこで惨憺たる現状に愕然とし「絶対に手伝いにいかな」と思いながら家に戻り、熟睡していた時にです。本震がきました。

家で熟睡していたら、夢か誠か、もう起きた時には部屋が凄い状態になっていました。すさまじい状況で、これは神社も大変な事になっているのではないかと思い、急いで車で向かいました。途中玉垣など色んなものが倒れて障害物になっていて、そうしたものを避けながら中に入り、そのまま車のライトで照らすと、もうぺしゃんこの状態でした。

向かう途中、楼門は構造上柱だけで支えられている事はわかっていたのであれだけの揺れならおそらく保たないだろうと想像はしていました。しかし実際に見ると、それはもう…言葉にならない想いが込み上げてきて、その場に立ちすくみ「とにかく夢なら覚めてくれ」という気持ちでただただ見つめていました。

それは地域の方も同じで、その後沢山の方が見に来られたのですが皆さん泣かれてました。神社の中でも楼門はシンボルで、とにかく地域のどこの場所からでもわかるシンボルでした。地域の誇りでもあり、阿蘇にはこの楼門があると言われ、特に愛されていました。その楼門が倒れたのでみなさん悲しみも増していたのだと思います。その日はずっと夜明けまで見守りをしていました。

その後の対応ですが、沢山の人が来ますので中に立ち入らないようにバリケードを設けたり、神社の水は濁らなかったので飲水を提供する場として整備をしたりしました。そうした事はしましたが、後は何もできません。正直私達も阿蘇でこんなに大きな地震が来るとは微塵も思っておらず、備えもしていなかったのでどうすればいいかがわからなかったんです。とりあえず、身の回りのできることだけをやりました。

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※倒壊した阿蘇神社の様子

それから2ヶ月が経過しましたが、現在は様々な関係者と話を進めながら計画を立てている段階です。被害は楼門だけに留まらず、祭祀を行う建物全てに発生しています。その内、6棟は国の重要文化財に指定されており、指定を受けている建物は関係機関と協議をしながら再建を考える必要があります。こうした建物は指定を受けている分補助もいただけるのですが、指定を受けていない拝殿に関しては自費で工事をする必要がありどう再建させるかが課題になっています。

どの建物にしても、現状復旧が基本で元の姿に戻すことが前提ですが、単純に作り変えればいいわけではありません。今後同じような地震がきた場合を想定した上で建てなければなりませんし、景観との兼ね合いもあります。宮大工も必要ですが、技術を持ってらっしゃる方も限られます。また、現在ある廃材や資材をどうするのか、という問題もあります。神社の建物ですから、すぐに右から左にというわけにはいかないのです。そうした所で、どう適応していくか定まっていない部分がまだまだ多くあります。

色んな面を考慮し、文化財の修復の仕方によっても変わりますが再建までには10年程度かかると見込まれています。費用に関しては全体で20億程度かかる予定です。まだ概算が出ていないため、その中で神社がどの程度の負担を負う事になるかはまだわかりませんが、指定を受けていない拝殿の再建を中心に相応の負担は必要になると思います。

今は何が最良なのかを検討している段階で具体的な事はまだ決まっていませんが、夏が過ぎた時期にはようやく目に見える形で少しずつ動いていくと思います。

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神社としては当たり前の事を当たり前にやることが大事だと思っています。今まで通り、踏襲して神事をやっていく、それがベースになります。7月28日には当社の一番大事なお祭りがありますが、例年通り必ず行います。祭祀を継承して我々の歴史がつながっていくことが復興につながり、神社にとっても一番大事なことです。

電気があって水もあり食べ物がある事はそれまで当たり前でしたが、震災を通してそれが当たり前ではないことを初めて実感しました。実は当たり前だったことが本当はありがたいんだと私達も実感したんです。

その経験を通して、我々は我々の当たり前を、歴史を紡いできた根幹たるもの、ずっと継承してきたことにより、みなさんのやはり気持ちの中心になるんじゃないかという気がします。だからこそぶれずに神社は特別なことをせず今まで通りの通常を続けることが重要なんです。

阿蘇神社への想いは職員も地域もみんなが持っています。1日も早く復興して欲しいとみんなが願っています。震災はありましたが、こういうことを経験すると次は強くなる、そういう思いもあります。すでにここの地域、仲町は元気で前向きで素晴らしいです。この地域の方とともに、神社はぶれずにこれまで通りの当たり前を続けていきたいと思います。

※この記事は2016年7月1日に取材した内容に基づいて作成されています。

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内村泰彰
阿蘇神社権禰宜。阿蘇市出身在住。昭和53年5月2日生まれ。

阿蘇神社

御守所 9:00~17:00(時間外も参拝はできます)
郵便番号 869-2612
住所 熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
電話番号 0967-22-0064
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今後の情報 facebookに現状報告を掲載しています
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インタビュー・テキスト:三上和仁 撮影:甲斐弘人
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