「ピンチをチャンスに変える」阿蘇地域振興局が担う被災地での役割

「ピンチをチャンスに変える」
阿蘇地域振興局が担う被災地での役割
2016-06-29 阿蘇地域振興局 沖圭一郎
境界線

阿蘇地域振興局には実は震災が発生する2週間前、4月1日に県庁から異動してきたばかりでした。まずはどっぷりと地元のことを学ぼうと現場を回り、土木部の現場が終わって、次は4月17日に農林部の現場を回るというタイミングで震災があり、それからはずっと震災対応に当たっています。

■■■

前震が発生した時は庁舎の近くにある公舎にいました。家に帰りゆっくりしている時にどーんと揺れて、揺れが収まったあとに急いで庁舎に駆けつけました。21時頃です。たまたま残業で残っていた職員がおり3階に集合しました。一人ひとり担当市町村を決め、管轄の7市町村全ての役場に電話をして被害状況の情報収集からはじめました。被害状況を確認しながら本庁や関係機関につなげ、同時に職員が無事かどうかの確認もしました。

前震では震度6弱を観測した西原村を含めて怪我人が数人程度の被害だったこともあり、「益城がひどいな」と話をしていた事を覚えています。管内では大きな被害はなかったため、待機体制に必要な人員を残して他の職員は帰宅しました。

本震発生時も公舎にいました。どーんと大きな揺れがあり長く収まらなかったのでとても怖かったです。停電したため、山登り用のヘッドライトで足元を照らしながら庁舎に向かい、庁舎に着いたのは1時40分頃でした。前震発生時から余震に備えて待機体制を取っていたため職員が14名おり、その職員とともに情報収集を開始しました。

大きな余震の影響で庁舎も大きく揺れ、また電話もつながりにくい状況でしたが、可能な限り情報収集しました。阿蘇市にはすぐに職員を派遣し、南阿蘇村にも翌朝職員を派遣しました。さらに阿蘇広域消防組合にも人を派遣して、消防からも情報収集しました。

本震後、自衛隊から連絡がありました。自衛隊はちょうど大分県で演習をしていた部隊がいて急遽こちらへ来る事になり、把握していた通行可能な道の情報などを伝えました。自衛隊の到着は早く、16日の未明には先遣隊が到着し、それからはこの庁舎を指揮所として救助活動をされました。消防も同様に西日本各地から沢山の応援が入り、庁舎の駐車場を提供し16日中には入られました。

市町村からの情報収集と、所管する保健所、農林部、土木部に関する情報収集、応急対応を進めました。また、市町村の災対本部支援や避難所への職員の派遣、さらに自衛隊や消防緊援隊の救助チームと市町村の調整なども行いながら、必要に応じて本庁への情報提供を行いました。例えば「JRが不通になって、阿蘇地区の高校生が通学に困っている」といった地域課題もこちらから本庁へ報告しました。

仮設住宅などの案件は県庁が直接の担当となりますが、阿蘇管内の道路や農地などの対策は地域振興局の担当になりますので、そうした部分を中心にその後も対応しています。

震災直後は緊急対応に追われ、18日の晩までは公舎にも帰らず、庁舎内で仮眠を取りながら対応をしていました。その後も私が夜中遅くまで残り、局長が朝早く来るという交替体制で休みなく対応しました。実は私の自宅は熊本市内にあり、全壊で引っ越しが必要だったため数日休みましたが、職員にも全壊が2人、半壊も含めればもっといますが、そうした家庭の事情がある中で、業務上の対応を優先してもらっています。

kumamoto002

今後の課題としては、まずこれだけ大規模な災害が想定に入っていたのかどうかという所から検証する必要があると感じています。特に通信系が機能せず設備の脆弱さを露呈した影響は大きく、災害の事を考えた機能アップは検討が必要です。電話がつながらず何回もかけ直すということもあり、その辺がスピーディーにやれればなお良かったと思います。

道路状況では通行止めが発生し、管轄でも被害が多数発生しました。例えば阿蘇山上へ向かう道も管轄していますが、相当な被害があり全面通行止めになっています。この道路は人が住んでいる地域ではありませんが、観光という側面では大きな意味がある道路で、できるだけ早期に復旧し通したいと考えています。

梅雨の豪雨対応に備え、梅雨前に地震による主要な土砂災害の現場は回り、被害状況を自分の目で確認しました。

山崩れに関しては下に民家がある場所など住民被害につながりやすい場所はできるだけ早めに治山工事や砂防工事をする必要があり、優先的に実施していきます。ただし、予算とマンパワーには限界もあるため、より緊急度が高い場所を見極めて実施する必要があります。

地域振興に関しては、市町村の支援を通した検討をしています。管轄する市町村によって被害の程度がだいぶ違い、南阿蘇村や西原は亡くなった方や避難者が多数おられますが、一方で人的被害が少なかった市町村もあります。観光の売上などは同じように落ちていますが、こういう被災の程度差を踏まえ、市町村と可能なことをしていきます。

県としても予算などの限界があり、どうにもならないこともありますが、住民から上がってくる要望に関しては、市町村とともにきめ細やかな対応をしていきたいと思っています。

■■■

今回、こうして大きな震災はありましたがこのピンチをチャンスに変えるという考え方もあります。特に「阿蘇を世界遺産に」という取り組みがあります。

阿蘇は日本でも有数な国立公園で、草原の風景が素晴らしく、九重連山から見ると「波野」という地名の通りの風景が見えます。北海道とはまた違う阿蘇の外輪山特有の綺麗な風景がありますが、一方で自然が厳しい場所でもあります。火山の中という自然環境が厳しい中で、人が住み自然に溶け込んだ姿は文化遺産になってもおかくしくはないと考えています。

世界遺産というとハードルは高い事ですが、そうした事も今後取り組んでいきたいですね。

※この記事は2016年6月29日に取材した内容に基づいて作成されています。

境界線

沖圭一郎
熊本県県北広域本部阿蘇地域振興局局次長。福岡県大牟田市出身。長崎大学を卒業後、熊本の県職員へ。阿蘇へは人事異動により4月1日から赴任しているが、趣味が山登りという事もあり以前から度々訪れている。

阿蘇地域振興局

郵便番号 869-2612
住所 熊本県阿蘇市一の宮町宮地2402
電話番号 0967-22-1110
FAX 0967-22-4103
e-mail assoumu25@pref.kumamoto.lg.jp
website https://www.pref.kumamoto.jp/kenhoku/hpkiji/pub/List.aspx?c_id=3&class_set_id=13&class_id=5634
境界線
取材協力:能登哲也(阿蘇地域振興局局長) テキスト:三上和仁 撮影:甲斐弘人
境界線
ツイートする
境界線